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国産万年筆 / 三社の細字の特徴と違い

 国産三社の「パイロット、セーラー、プラチナ」の細字には、それぞれ特徴があり、書き味は異なっています。それぞれの違いについて、私の印象を書きたいと思います。この記事では、ニブの柔らかさは置いておいて、ペン先の研ぎ方とインクフローに焦点を当てて書いています。なお、対象とするのはそれぞれの"14K F字"です。

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◆インクフローと研ぎ方の違いについて

インクフロー
国産三社のうち、インクフローが良いのは、「 パイロット>セーラー>プラチナ 」の順です。
ペンポイント
一方、ペン先のイリジウムの大きさ、紙との接地面の広さでは、「 プラチナ>セーラー>パイロット 」の順です。

 同じ細字を実現するのでも、「インクフローを良くする一方、イリジウムを小さくする」という方法もあれば、「イリジウムは大きいけれど、インクフローを絞る」という方法もあります。前者を採用しているのがパイロットで、後者がプラチナというわけです。セーラーは両者の中間ですね。


 パイロットはイリジウムが小さめで、紙との接地面は丸みを帯びています。また、イリジウムはニブのラインから盛り上がってます。それに対し、プラチナは「カット」という研ぎ方で、イリジウムを四角にした後、八角に研ぐそうです。イリジウムはニブのラインから盛り上がっておらず、また接地面も平らです。

 この辺りの研ぎ方の違いは、実際にそれぞれの細字ニブを10~20倍のルーペでご覧になると分かると思います。もし実物を持っていないという方は、『趣味の文具箱 vol.10』の 「p.90の #3776 ギャザード」 と 「p.91の カスタム67」 のペン先の違いをご覧になれば、それぞれの特徴が一目瞭然かと思います。


(※2011/07/14:追記)
 プラチナは33年ぶりに#3776をフルモデルチェンジしました。今回の改良により、プラチナのペン先はセーラーに匹敵するぐらいにインクフローが良くなりました。
 →プラチナ 「#3776 本栖」 のレビュー

◆書き味の違いについて

 そうした違いが、それぞれの書き味の違い、個性の違いとなって現れてくる訳です。

 パイロットはインクフローが良いですから、インクがドクドク出る気持ちよい書き味が得られます。人によって好みの違いがあるとは言え、やはり潤沢なインクフローは書いていても楽しいです。インク掠れでイライラすることもありません。

 しかしその一方、筆跡がぼやけがちで、止めや払いが綺麗に決まりにくいです。口の悪い人は「眠たい筆跡」とも言います。特に、あまり質の良くない紙に書くと、インクが出過ぎるため、筆跡がぼやける傾向が強くなります。また、イリジウムが小さめのため、紙を引っかきがちで、カリカリする書き味の傾向があります。

custom heritage91


 プラチナはインクフローが絞られているため、筆記線がぼやけず、止めや払いが綺麗に決まります。細字で日本語を一番綺麗に書けるのは、プラチナだと私は思います。紙に引っかかりにくく、抵抗感のある独特の筆記感も楽しめます。

 しかしその一方、インクフローが悪いために、書くことの楽しさ、というのは感じにくいです。また、まるで鉛筆で書いているような抵抗感のある筆記感も、長文を書いているとちょっと辛くなってきます。

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 このように、パイロットにもプラチナにも、それぞれのメリット、デメリットがあります。しかしプラスに考えれば、その時々の気分や目的によって、使い分けをすれば、それぞれの万年筆を快適に使えるとも言えるわけです。

 例えば、手紙などで字を綺麗に書きたい、という時にはプラチナを使えば良いですし、日記などで長文を気持ちよく書きたい、という時にはパイロットを使えば良いわけです。あまり尖った特徴があるのはちょっと、という場合は、セーラーを使えば良いでしょう。


◆終わりに

 国産三社の万年筆は、スタンダードラインがどれも黒色のバランス型、ということから、どれを使っても似たようなもの、と考えてしまいがちです。しかし、使い込めば使い込むほど、それぞれの特徴や良さ、違いが見えてきます。もし、一つのメーカの細字に飽きた、という場合は、他の国産メーカを試されると良いでしょう。また違った楽しさがそこから見えてくるかもしれません。

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※備考1
 今回の記事は、インクフローと研ぎ方にのみ焦点を当てた分析です。書き味に影響を与える他の要素、例えばニブの柔らかさやニブの大きさ、軸バランスなどは考慮に入れてません。ですから、もちろん同じメーカの万年筆でも、ニブの柔らかさなどで書き味は異なってきます。


※備考2
 セーラーはパイロットとプラチナの中庸な部分が多いため、記述が少なくなってしまいました。しかし、別にダメだとか嫌いだとかいうわけではありません。セーラーの場合、14kと21kの個性の違いが特徴的です。ここまで違う書き味なのは、国産三社の中でセーラーだけです。いずれ機会があれば、その違いについて記事にしたいと思います。


※備考3 (2011/07/14 追記)
 プラチナは#3776をフルモデルチェンジして、インクフローが良くなりました。しかし、大筋としては特徴は変わっていないと思います。

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コメント

さすが細字マニア研究されてますねぇ。
私は滑りの悪いプラチナが苦手、早書きなので引っかかる感じが苦手なのです。
あまり細字を求めないのですが、先端を絞ってあって筆記角によって抑揚が出る研ぎ方が好みです。

投稿: どーむ | 2008年8月30日 (土) 09時55分

 どーむさん、こんにちは。
 持っているのが事実上細字だけなので、細字の書き味の違いについては自然と詳しくなってしまいました。(^^;
 プラチナは結構好みが分かれるみたいですね。書き味を抜きにして、他人に見せる文章を書くときはプラチナは便利なんですけれど。
 私自身は、長刀とか柔らかニブなど、書き方によって字幅が変わるのはどうも苦手です。それを使うと、どうも上手に字が書けないんですよね。そういう万年筆を使って草書とかを書いたら綺麗に書けそうですが、仕事だとどうしても楷書オンリーになってしまいますね。

投稿: もきゅすけ | 2008年8月30日 (土) 21時14分

去年、求めやすいラミーのサファリ(EF)を購入して、万年筆というものを初めて知った者ですが、書いてみて、「どこが極細なのか?」と思わず、苦笑いしてしまいました。

外国産は漢字を用いないので、太めであることを最近知りました…(笑)
裏映りも最近なんとかならないかなと思っているところです◎


今度は、折衷型のセーラーのを購入してみます。ありがとうございました。

投稿: 雨どいのネコ | 2010年2月28日 (日) 12時52分

 雨どいのネコ さん、こんにちは。

 ラミーのEFは、かなり太めですよね。私も最初は、舶来万年筆の太さに悩まされました。(^^;
 裏移りは、インクと紙の種類によってかなり異なりますから、なかなか難しいです。裏移りしにくい紙、インクを探すのは、なかなか難しいです。紙の方を厳選する方が、裏移り対策としては楽かと思います。ただ私の場合、裏移りについてはあまり気にしなくなってます。(^^;

 セーラーは14Kと21Kとでは、だいぶ書き味が違います。21Kニブはちょっと書き味が独特ですので、14Kニブの方がどちらかと言えば無難かと思います。

投稿: EF Mania | 2010年3月 1日 (月) 23時43分

ここ半年ほどで万年筆を試験用に使うようになったのですが

店やブログによって硬い柔らかい、しなり、インクフローの違いなど、言ってることが全然違うので困ってました。

この記事は物理的な面な点から説明してあるので納得できました。パイロットは点で当たるので、ぐにゃぐにゃしました。だからかプラチナはだいぶ書きやすかったです。安いのに

万年筆ぽくないのかもしれませんが、プラチナは漢字が安定して書けますね


投稿: | 2015年3月13日 (金) 00時25分

こんばんは
現在、パイロットとセーラーでコンバーター、カートリッジのモデルを両方使用しています。
パイロットは鉄ペンですが、コンバーター、カートリッジ共にインクフローが良く、すらすら書けます。
速書きの方向けですね。
セーラー製の万年筆の場合、カートリッジ式はすらすら書けますが、コンバーター組み込んだ万年筆はインクフローがやや渋め、時折かすれる事があります。まだ馴らしが済んでないのかな?
ただ14K, 21Kでの違いはあまり感じないです。

投稿: 雲 | 2015年4月29日 (水) 01時17分

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