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吸入式万年筆のインク吸入量が少ない理由

 『趣味の文具箱 vol.11』 には、コンバータ、カートリッジ、吸入式万年筆のインク容量の調査が載せられています。そこで意外に思ったのが、ペリカンのスーベレーンのインク吸入量です。「M400>M800>M1000」となっているんですよね。私はずっと、M400~M1000のインク吸入量は全部同じに設定されていると思いこんでいたので、これは意外な結果でした。(※もっとも、測定誤差という可能性もあるのですが)

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◆インク吸入量が少ない理由

 一般には、M1000などの大きな吸入式万年筆は、多くのインクが吸入されるんだろう、と漠然と思っている人がたまに見られます。しかし実際は、大きな太軸の吸入式万年筆でも、吸入できるインク量は控えめに作られています。これには理由があって、それはインクのボタ落ちを防ぐためなのです。

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 吸入式のインクタンクが大きくなると、インクが少なくなったときに、インクタンク内の空気の量も多くなります。すると、持ったときの手の熱や気温の変化、気圧の変化などで、インクタンク内の空気が膨張し、結果としてインクがペン先から吹き出てしまう、という事故が発生しやすくなります。そうした事故はクレーム対象となりますから、メーカー側はあまりインクタンクを大きくしたがらないのです。

◆インクの吸入量が増やせる工夫

 『趣味の文具箱 vol.11』で最もインクが入る吸入式万年筆として挙げられていたのは、パイロット「カスタム823」です。カスタム823は、尾栓を開けて初めてインクタンクからペン先にインクが供給されるシステムだからこそ、あの大容量を実現できている、という面があるのです。尾栓を閉めた状態ではインキ止め式のようにインクタンクと首軸が物理的に遮断されていますから、気温や気圧の変化でインクがペン先から吹き出る心配はありません。

 →パイロット「カスタム823」を購入した

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 大容量インクタンクでもペン先からインクを噴き出させないようにするシステムは他にもあって、ヴィスコンティの「ダブルタンク・パワーフィラー」がそれに当たります。ちょうど、ブログ「カフェイン依存症気味なエンジニアの雑記」さんがその仕組みを備えた万年筆を購入された所です。

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 このダブルタンク・パワーフィラーという機構では、インクタンクが二つに分かれ、尾栓を閉めると後ろのメインタンクが手前の小タンクから遮断されます。これにより、メインタンク内の大量の空気が膨張してもインクが吹き出る恐れはありません。それに加え、カスタム823のように「筆記する度に尾栓を開ける」という作業も必要ありません。小タンク内のインクがなくなった時に尾栓を開けて、メインタンクから小タンクにインクを移動させればいいわけです。


 以下の公式サイトのアニメーションで、仕組みがよく分かります。(※右下の NEXT をクリックしてください。)

 →Double reservoir power filler (Visconti 公式サイト)

 この仕組みは、カスタム823の機構の「栓をする場所を後ろにした」とも言えます。説明されてみれば単純なことなのですが、効果は絶大です。コロンブスの卵的な発想と言えるでしょうか。


 その一方で、レシーフクリスタルのように、"気圧や気温の変化なんて知ったことか" 的な万年筆もあります。また、自己責任でピストン位置を調整して、たくさんインクが入るように改造する、という人もいるようですね。

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コメント

スーベレーンシリーズでインク吸入量とペンのサイズが逆転していたのは驚きました。
オペラ・マスターですが、詳細は計測中ですがカスタム823の吸入量は確実に超えている様子です。

投稿: lloigor | 2008年8月 2日 (土) 02時16分

 そうですよね。ペリカン社は何を考えてM400の方がインクを入る設計にしているのか問いたいぐらいです。(^^;
 オペラ・マスターデモはやはりたくさんインクが入りますか。レシーフクリスタルとかヴィンテージのインキ止めなどを別にすれば、メジャーどころでナンバーワンのインクが入る万年筆と言えそうですね。

投稿: もきゅすけ | 2008年8月 2日 (土) 06時05分

 吸入式の万年筆ではそうかもしれませんね。吸入量を稼いで、なおかつ噴射事故を防ぐなら、スティピュラのように巨大コンバーターを仕込むという手もあります。つまり、二重構造にして魔法瓶にするわけですね。ノベセントというペンを持っていますが、ボディがエボナイトで熱伝導が低い(のかな?)上に、巨大コンバーターが仕込んであるため、吸入量が多い割にトラブルが少ないです(実際に何cc1入るか計ったことはないですが、パイロットのCON-70よりは入るんじゃないかなぁ)。

 もしかしたら、同じペリカンでもマジェスティーなら吸入量を多くしてあるかもしれません。吸入式なのにボディーを一度開ける方式、つまり魔法瓶方式なので。まぁ、M800とかの吸入機構を流用している可能性もありますが…。

投稿: しまみゅーら | 2008年8月 3日 (日) 23時25分

 なるほど、コンバータ内蔵方式なら、そういうメリットもあるわけなのですね。
 ただ、これは偏見かもしれませんが、コンバータ内蔵式は、なんか中途半端感があって、あまり物欲をそそられません。両用式でもない、吸入式でもない、という中途半端さが。どうせ内蔵するなら、吸入式にすればいいのに、と思います。
 マジェスティーは何故あんな方式にしたんでしょうね。アウロラにもシルバー軸で吸入式があるのですから、シルバー軸では吸入式の万年筆が作れないという訳でもないでしょうし。その辺りが、シルバー好きの私がマジェスティーにあまり惹かれない理由の一つだったりします。

投稿: もきゅすけ | 2008年8月 4日 (月) 03時59分

セーラーの川口先生が、レアロを開発するときに、障害だったのが、おっしゃるように大気圧だそうで、モンブランの149も1.5ccしか入らないように作ってあるとのことでした。
同様に、レアロも1.54ccしか入らないとのことです。
入れ物が大きくても、インク漏れがあると困りますからね。
それにしても、M1000が一番吸入量が少ないのは意外でした。<趣味文11
M1000は持っていないので何とも言えませんが。
もきゅすけさん、実験してもらえませんかヾ(^ )コレコレ

投稿: ZEAK | 2008年8月 4日 (月) 09時05分

一応、M1000は持っているのですが、測る道具がないです。(^^;
週末にでも東急ハンズに行って、手に入れてこようと思います。
ちょうど、重さを量るスケーラーを買おうと思ってた所なので。
ただ、ペン芯内に残る分が問題なんですよね。
その辺りで、誤差なく測るのは難しそう。

投稿: もきゅすけ | 2008年8月 4日 (月) 12時07分

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