パイロット 「ボーテックス (Vortex)」 のレビュー
パイロットのボーテックス、Fニブです。
(1)外観、首軸
ボーテックスの外観はかなり特徴的です。大きい透明のキャップ、長い首軸に短い胴軸、原色を大胆に使ったポップなデザインと、一般的な万年筆の形状とはかなり異なります。それなりに好みが分かれるデザインかもしれません。
中でも一番特徴的なのは、首軸のラバーですね。この凸凹のラバーは、ロットリングのスキンのような、「弾力で手が痛くなるのを防ぐ」ことを目的としたものとは少し違います。ボーテックスの首軸は、多少の弾力はありますが、基本的にはすべり止めの役割がメインではないかと思います。
私は乾燥肌の持ち主で、金属の首軸が滑りやすくて苦手という体質なので、こうした工夫された首軸は有り難いです。
しかも、ラバーがついた首軸がとても長いというのは有り難いですね。人によって、首軸のどこを持つかは大きく異なります。ですので、この長いラバーグリップのおかげで、万年筆の先端付近を持つ人から中央部分を持つ人まで、どんな筆記スタイルにも合わせられるという訳です。
この長い凸凹のラバー部は、デザイン的にはあまり格好良い物とは言えませんが、実用性を考えると、とても良くできていると思います。
(2)ペン先
ペン先は鉄ペンです。半分ぐらい隠れている独特のスタイルですね。多少の弾力はありますが、基本的には硬めのペン先と言っていいでしょうか。ペン先品質はパイロットらしく、安定していて良い書き味だと思います。
このペン先で書いた筆跡は、カスタム74を始めとする金ペンとはだいぶ異なりますね。パイロットの金ペンは、かなり多めのインクフローで気持ちよく書ける反面、にじむ紙やインクを用いると、線がぼやけがちになるという特徴を持ちます。
しかしボーテックスでは、インクフローは適度で、縦横の幅が同じのきっちりとした文字を書きやすいです。細かい文字を楷書で綺麗に書きたい場合は、カスタム74よりもボーテックスの方が向いていると私は思います。プレラも同様の傾向があります。
ただその代わりに書き味は平凡で、金ペンのような「書いていて楽しい」という感覚は乏しいでしょうか。
(3)キャップ
このボーテックスの最大の問題は、キャップにあると思います。キャップはネジ式なのですが、締めるのに必要な回転数が三回転と多いのです。
これは非常に気になります。一度や二度なら良いのですが、日常的に使うとなると、この回転数は面倒に感じます。万年筆はその性格上、ペン先が乾くことを防ぐために、キャップの開け閉めを頻繁に行うものです。それだけに、キャップを閉めるのが面倒というのはかなりのマイナスポイントです。
さらに、私のボーテックスはキャップを閉めるときに、ギコギコと結構大きな音が振動と共に鳴るようになってしまいました。最初からなのか経年劣化かどうかよく分かりませんが、数多く万年筆を持っている中で、この症状が出ているのがこのボーテックスだけなのは事実です。
この面倒さと音の問題のダブルパンチで、このボーテックスはインクを抜いている時期の方が長いですね。書き味や首軸の滑りにくさなどは評価していますから、たまにインクを入れて使うのですが、レギュラーとして常用しようという気にはなれません。
(4)改造
このボーテックスですが、ゲルインキボールペンの方は嵌合式なんですよね。ですので、万年筆と胴軸部分を入れ替えて、嵌合式のボーテックスを作り出すことが出来ます。ブログ「カフェイン依存症気味なエンジニアの雑記」さんが、そのレポートを書いておられます。
→PILOT ボーテックス 万年筆&ゲルインキボールペン比較 (カフェイン依存症気味なエンジニアの雑記)
この改造によって、ボーテックスの最大の弱点がなくなるわけですが、残念ながら、ゲルインキボールペン版はすでに廃番になってしまいました。なので、流通在庫を探す必要がありますから、今から改造に乗り出すのは難しいでしょうか。
(5)筆記バランス
胴軸が短いだけに、キャップを後ろに嵌めるのは必須だと思います。胴軸もキャップも軽量ですから、リアヘビーになるなどの問題もなく、大量筆記もしやすいです。ラバー付きの首軸は細めですから、太軸が好みではない人に特に合っているでしょうか。
キャップを後ろに嵌めるときは、嵌合式でパチンと嵌める方式です。そのせいもあってか、キャップをしまうときに、ネジ式なのにそのまま押し込んでしまう、という勘違いを私はしがちです。
(6)コンバーター
両用式の万年筆で、CON-20とCON-50が使えます。最強コンバータであるCON-70が使えないのは残念です。
CON-50を使う場合、胴軸でインク窓が隠れて、インクがどれだけ入っているのか分かりにくい点は、マイナスポイントですね。
(7)総評
色々な意味で特異な部分を多く持つ万年筆です。低価格であることやラバーグリップ、安定した筆記線はボーテックスを魅力的なものにしていますが、一方でキャップを閉めるのが面倒という問題も持ちます。
功罪の両方を持つ、クセのある万年筆と言えるでしょう。そういう意味で、誰にでも手放しで勧められる万年筆ではありません。しかし書き味は安定していますから、低価格万年筆の購入を検討している人には、良い候補の一つと言えるのではないでしょうか。
※スペック一覧
・重さ 全体:17g キャップ:9g キャップなし:8g
・長さ 全長:12.6cm キャップなし:11.5cm 後尾にキャップ:15cm
・太さ 首軸最小径:9.5mm 首軸最大径:11mm 胴軸最大径:12mm 胴軸最小径:10mm キャップ先端:15mm キャップ後端:10mm
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コメント
TBありがとうございます。
ボーテックスは、複写用紙にも使える程の筆圧耐性が魅力です。
キャップ開閉時のビビリ音は、私の持っている個体では新品時から酷かったです。
キャップや軸の素材に問題があるのではないかと考えています。
透明軸万年筆ではアクリル樹脂が使われていることが多いですが、
ボーテックスのキャップはポリカーボネートっぽいですね。
投稿: lloigor | 2009年6月11日 (木) 11時48分
lloigor さん、こんにちは。
ありゃ、lloigor さんのところでも、キャップ開閉時に音がしますか。となると、ボーテックスに元からある固有の問題みたいですね。嵌合式だと、勢いよくキャップを引き抜いたときにインクが飛び出る、という問題があるものの、やはりこういうカジュアルな万年筆だと、嵌合式の方が便利ですよね。
透明軸の材質の違いですか。文系の私にはアクリルとポリカーボネートの違いはよく分かりませんが、やはり改善して欲しい所です。
とは言え、ゲルインキボールペンが廃番になった所から見て、これから消えゆくであろうモデルっぽいですから、今からの改善や仕様変更は期待薄でしょうか。(^^;
投稿: もきゅすけ | 2009年6月11日 (木) 14時39分
こんにちは。
先日は、記事冒頭にて拙blogをご紹介いただきありがとうございました。
普段から、もきゅすけさんとこからの訪問が多いのですが、この時ばかりは
何が起こったんや?状態でした(笑)
ボーテックス万年筆の嵌合式への道、masahiroでも見たことあるよな、
と思い出したのでURL貼っておきます。もう、ご存知かも知れませんが。
もしかしたら、世界で一番思いいれのあるレビューもあります。
ネジ式キャップの効率的な外し方もありますので、ご参考に。
http://masahiro14k.blog67.fc2.com/blog-entry-16.html
投稿: zero-52 | 2009年6月11日 (木) 22時42分
zero-52 さん、こんにちは。
先日の記事では、zero-52さんの記事がとても参考になり、また新しい事実も知ることができましたので、とても有り難かったです。
masahiroさんの所は、えらくボーテックスを推していますね。商売を考えれば、もっと高額な商品をプッシュした方がいいのかもしれませんが、それだけボーテックスを買っているのでしょう。実際、ボーテックスはいい万年筆だとは思うのですが、それだけに、キャップの仕様は残念に思うんですよね。
投稿: もきゅすけ | 2009年6月12日 (金) 17時01分
はじめまして。T.Bさせていただきました。
いつも参考にさせていただいております。
おもしろいですね。ボーテックスの評価の違い。
カスタム系統のインクフローをにじみやひろがりをも含めて好ましく感じる私は、ボーテックスのインクフローを残念に思います。
一方、長年 勘合式のキャップ一筋だった私は、慣れているとはいえ、
ペン先を傷つけない様に気を使いながらキャップを抜く事から解放されて、
このロボットのような万年筆のネジをじっくり緩めてゆく操作感が好ましく思います。
>ゲルインキボールペンが廃番
急いで確保せねばなりません。情報感謝です。
投稿: Hagy | 2010年7月19日 (月) 13時52分
>Hagy さん
私は細字が好きですので、インクフローが抑え気味のペン先は割合好きです。縦横がきっちり同じ線が書ける万年筆が好きです。
ボーテックスの嵌合式は、回転数が多すぎるのが悩みです。もう少し少ないと、扱いやすいのですが。とは言っても、ペリカンぐらい少ないと、キャップが外れやすくてこれはこれで困るのですが。
投稿: EF Mania | 2010年7月23日 (金) 22時58分